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ローエントロピーとジビエ


エントロピーは熱力学の世界で生まれた言葉だけど、人間がいきていく上で欠かせない概念。

たとえば、ごはんを食べること。

ごはんは1杯約230kcalっていうのは、ダイエットする人の常識。

食べることは人体を動かすエネルギーそのものなのだけど、

お米ができるまでを解体してみると、田植えをして収穫するまでに

太陽の光(太陽光はエネルギーだ)と、水、そして育てる人のエネルギーが

蓄積されているんだとわかる。

もしお米を家の横で育ててそれを食べるなら、輸送にかかるエネルギーは少ないけれど

遠い場所から車でお米を運ぶと、物流のためのガソリンがかかる。

ガソリンは、いうまでもなくエネルギーそのもので、石油は

何億年も前の植物たちのなきがらが圧縮されたもの。

その中にはたくさんのCO2が溜まっていて、せっかくためたOC2は

燃やすことで 空気中に放出されてしまう。

CO2がたまることで、太陽から絶えず受ける熱を地球の外に放出できない状況は

地球のエントロピーの増大といえる。

食べ物で移動にかかる石油をせめて減らそうとなると、当然地産地消になる。

野菜も、魚も、肉も、基本的には鮮度が命。

素材が新鮮というだけで、実はじゅうぶんなご馳走だ。

さて、肉食か草食(ベジタリアンやヴィーガン)は

どちらがエントロピーが低いか?というと当然草食だ。

牛1頭飼って、餌(草)をやり、育つまでの数ヶ月、

同じ面積でもし野菜を育てたら、どれだけたくさん収穫できるだろう?というのはベジーの常識。

昔ファッション雑誌の編集をやっていた頃、北欧出身のモデル(確か17歳頃)に

この常識をはじめて教わったとき「ヨーロッパの若い女の子ってしっかりしてる!」と感動したけれど

ベジタリアンが発祥した西欧では当たり前の考えで、もともと

草食が中心だった日本ではたぶんこれから常識になる考えだろうか。

息子が生まれる前、一時期ベジタリアンだった。

「肉は食べたらだめ!」の正義感もあったけど、

「野菜料理って楽しい」「野菜だけでこんなにバリエーションが楽しめる」という

驚きと楽しさが勝っていた。

一度ベジーになると、今度は動物性の生臭さが気になって

自然と動物性のものが食べられなくなる。

しかし、ゆるいベジーだったから

外食先で肉を抜いてくれといったのに、入っていたとしても

「作り直して」というもったいないこともしないし

人の家に招かれれば肉も魚もいただいていた。

捨てることが一番もったいない。

というわけでベジーな時期も、叔父からもらうジビエは、無駄なく料理していた。

叔父は和歌山の山奥にすんでいる。

家の一歩外は山道で、その山道は、イノシシが背中をこすったために土がはげ落ちて、

くまざさの根っこがみえているという

なかなかワイルドな里山で、川を渡れば熊もでるという。

かっている番犬の紀州犬は、泥棒よけではなくイノシシやサルよけだ。

叔父夫婦は毎年年末につくお餅と一緒に

「猟師さんがしとめたばかりだよ」という

ジビエをもってきてくれる。

たいてい、鹿かイノシシだ。

今年はイノシシと聞いていたけれど、脂身が多い。

まるで白とバラ色の重なりは豚肉のようだ。

「これはイノブタ(イノシシと豚を交配させた動物)が野生化したんじゃないの?」と主人。

真相はわからないけど、野生動物の肉は脂が多い。

去年は脂もすべてシチューにしたから、ちょっと重たかった。

今年はあらかじめ脂身をそぎ落とすことにする。

この白い脂は、和歌山の山奥に生えるどんぐりや木の芽や、栗の実が姿を変えたものだ。

万物は流転する。

いつも赤ワインで1−2日マリネして、香草とトマト缶と一緒にルクルーゼに入れて

薪ストーブにかけるだけ。最低でも4時間は煮込む。

こうした煮込み料理をするとき、燃料が薪だから

罪悪感が少しだけ少ない。

とはいっても薪だって、全国民が使ったら薪は足りないし

CO2もでる、煤も体によくない。

だから薪ストーブは「ばりばりエコです」というつもりは決してない。

我が家では廃材としてチップにしてしまう端材をもらっているのと

機密性の悪い日本家屋をガスで温めると、ひと冬でとほうもないガス代を払わないといけないから

取り入れたシステム。

そして、何より楽しい。

薪ストーブの良さは何より、じっくり煮るだけで魔法のおいしさになること。

今年は炭酸が肉を柔らかくするそうだから、赤ワインにビールを加えてみた。

さすがにちゃんぽんにドキドキしたけれど、ビールがいい仕事をしてくれて

お肉はほろほろ、ソースの味もまろやかになった。

ちなみに、息子を妊娠したら突如「お肉が食べたい」と思うようになり

いまではすっかり雑食にもどってしまった我が家です。

(写真 衣笠名津美)

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